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第1章
基本的なテクニックと
パラレルターン

 
1-1■シュテムターンとパラレルターンの違いはここだ!!
 
テクニック1『山側スキーの山側エッジに体重を移動してからエッジを切り換える』
 シュテムターン(※1)ができるようになったスキーヤーはあらゆる斜面をどんどん滑りながら上達していく。ターンの時にスキーを開く幅がだんだん狭くなり「パラレルターンもまもなくできそうだ」と思われる。
 だが、しかし、多くのスキーヤーはここで巨大な壁にぶち当たるのだ。それは、ほんの少しなのだがターンの時にスキーの後ろを開くというシュテムターンの操作がいつまで経っても消えないのである。どうしても、あの美しいパラレルターンにならないのだ。しかも、斜面が急になればなるほど、スキーの後ろを開く幅は大きくなってしまう。
 全日本スキー連盟では、プルークボーゲンから少しずつ開き幅を狭めてパラレルターンに到ると指導しているが、それができるくらいなら誰も苦労しないのである。ここに存在する最大の問題点は、シュテムターン(あるいはプルークボーゲン)とパラレルターンの操作上の決定的な違いを正確に理解していない事にある。
 それではその違いとはいったい何なのか? ここでじっくり説明するから、よく読んでもらいたい。
 
(※1)シュテムターンとは、単純に言うと、ターンする時はスキーをハの字形に開いてプルークボーゲンでターンし、その後、スキーを揃えて斜面を斜め横方向に滑っていく斜滑降に移り、またターンする時にスキーをハの字形に開いてプルークボーゲンでターンするという技術。正確に言うともう少し難しくなるが、この程度に理解していればとりあえず問題ない。
 
図1A シュテムターン
 まず、シュテムターンでは斜滑降から次のターンに移る時に、
@山側スキーを開く。
Aその開いたスキーに体重をかけてターンに入る。
【図1‐A】
という順でターンを始めるのだが、山側スキーを開いた時に、実はエッジの切り換え操作をおこなっているのだ。斜滑降の時、山側スキーは、山側のエッジ(小指側のエッジ)が雪面についている。山側スキーを開くと、今度は反対側のエッジ(親指側のエッジ)が雪面につく。親指側のエッジが雪面についた状態でそのスキーに体重を移すのだ。
 
図1B パラレルターン   これに対し、パラレルターンでは、
@山側のスキーに体重を移す。
Aエッジを切り換えてターンを始動させる。
【図1-B】
という順でターンを始める。
 即ち『エッジを切り換えるのと、体重を移し換える順序が逆』なのである。
  図2 パラレルターン詳細 
 もう少しパラレルターンの操作を詳しく説明すると【図2】、ターン切り換え時に
@山側スキーの山側エッジ(小指側エッジ)に体重を移す。
A次の瞬間に山側スキーのエッジの角付け(※2)をゆるめ、スキーを雪面に対してフラットにあてる。(横滑りが生じる)。
B上半身を谷側の方へ向ける(ねじる)。
 (ターンが始まる)
 
 というふうになる。ここで注意することは、『体重を山側スキーにかけ続ける』事である。
 
(※2)「角付け」とは、雪面に対し角度を付けてスキーのエッジをあてる事。エッジを角付けすることで、スキーが横方向にずれることを防いでいる。
 
 では、どうしてこうすればパラレルターンができるのかを説明してみよう。そのためにはまず、スキー技術の最も大切な基本『外足荷重』について説明しておかなければならない。
 外足荷重とは、ターンの外側のスキーに体重の大部分をかけてターンする技術の事である。だいたい、体重の7割以上を外スキーに荷重すると考えていいだろう。
 その理由を説明すると、スキーを揃えて(パラレル)ターンをしている最中、ターン外側のスキーは親指側のエッジが雪面についているのに対し、内側のスキーは小指側のエッジが雪面についている。親指というのは体の中心部にあり、バランス良く体を支えることができるが、小指は体の外側にあり、体を支えるには不安定なのである。
図3 外足荷重の場合   もうすこし詳しく説明すると、例えば、右足の親指にちょうど重心がのってバランスがとれていたとする【図3-1】。ところがバランスを崩して重心がやや右(図中A)に移ったとする。するとこの場合は、右足の小指までの間で支える事ができるので転倒に至らない。
 最初に戻って右足の親指にちょうど重心がのってバランスがとれていた状態から今度は左(図中B)にバランスを崩したとする。すると左足で支える事ができるので、やはり転倒に至らない。
 
図3 内足荷重の場合  ところがである、今度は左足の小指側に重心をのせてバランスをとっていたとしよう【図3-2】。この場合、右側(図中A)にバランスを崩しても、右足があるので転倒に至らないが、左側(図中B)にバランスを崩すと、それより左側に支えるものは何も無いから転倒に至るのである。運動神経のいい人なら、ここで"けんけん"をして左足をさらに左へ運んで転倒をまぬがれるだろうが、スキー滑走中では非常に難しいことである。
 だから、バランス良く安定してターンをするには、親指側のエッジが雪面についている外スキーに体重をかける事がベストなのである。
 また、内足荷重の場合は、同じ強さの遠心力に耐える場合、外足荷重の時よりさらに大きく内側へ傾かないとバランスがとれない。即ち、よけいな体の動きが必要となってしまうので素早い動作をするのには不利であり、バランスも崩しやすくなる。「内足荷重は内側へ体を大きく傾けるから、大きな遠心力に耐えられる」というような間違った理論は論外である。
 
 以上、簡単な説明ではあるが、ここが非常に重要な点なのである。とにかくターンの外側のスキーに体重をかける事が第一に求められるのだ。
 
 そこで話を元に戻すが、前のターンから次のターンへと切り換える時、前のターンの外スキー(切り換え時は谷側にあるスキー)から次のターンの外スキー(同じく山側にあるスキー)に体重を移し換える必要がある。即ち、谷側のスキーから山側のスキーへ体重移動しなければならないのである。ところが、山側のスキーは小指側のエッジが雪面についているため、体重を支えるには不安定である。だから無意識のうちにスキーのテール(後ろ)を開き出すことで安定した親指側のエッジを雪面につけ、それから体重移動をする事になる。これがシュテムターンなのである。
 パラレルターンをするには『山側スキーの小指側エッジに体重を移す』という明確な意識を持つことが重要なのである。そうすることで足を開き出すことなく体重移動ができ、次の瞬間にはエッジを切り換え、新しいターンを始める事ができる。そこにはもう、スキーを開くという動作は見られないのである。
 
*注意点『外スキー=谷スキー ではない』
図4 外スキー=谷スキー ではない  外スキーとは2本のスキーのうち、ターンの外側のスキーの事であり、ターン前半は山側スキー、ターン後半は谷側スキーにあたる【図4】。よく、スキースクールなどで、谷側スキーにしっかり荷重することを教わるが、これはターン後半部分でターンを最後までしっかり仕上げる(暴走を止める)ための方法である。ところが、荷重は谷側スキーにかけるものだと思い込んでしまう人が多く、「山側スキーに荷重する」と教えると、「えっ、山側に荷重していいのですか?」と不審に思うスキーヤーが実に多い。
 荷重は外スキーにかけるのがスキーの基本中の基本で、ターン前半部分では外スキー、即ち山側スキーに荷重する事をしっかりと理解しておかなければならない。いつまでも谷側スキーに荷重していたのでは次のターンが始まらないのである。
 
*できる人、できない人
 さて、パラレルターンの理屈は理解してもらえたと思うが、実際指導してみると、すぐにできる人と、なかなかできない人に分かれる。なかなかできない人は、小指側エッジでバランスをとるのが苦手な人で、小指側エッジに体重をかけるのが「恐い」。だから、何度やっても無意識のうちに山側スキーのテールを少し開き出してから体重をかけてしまうのである。
 
*できない人の為のトレーニング方法
図5 階段登行  まず、中斜面で階段登行の練習をする【図5】。階段登行とは、両スキーを平行にしたまま、カニの横歩きのようにして斜面を登って行くやり方である。この時重要なのは、両スキーとも山側のエッジを使って登って行くことである。ほとんどの人はできるが、初心者時代にこれを充分やっていない人は、山側スキーの山側エッジを使わず、山側スキーの谷側エッジを使おうとする。ここでしっかり山側スキーの山側エッジ、即ち小指側エッジを使う感覚を養う事が第一歩である。
図6-1 斜滑降の練習  階段登行がきちんとできる人は、山側スキー1本に体重をかけて斜滑降の練習をする【図6-1】。斜滑降の練習は、上から滑って来るスキーヤーに衝突されないように充分注意して行う。
図6-2 横滑りの練習  それができるようになれば今度は中〜急斜面で、停止した状態で山側スキー1本に乗り、そのままエッジをゆるめてスキーを雪面に対しフラットにし、横滑りを行う(横滑りは斜面が急な方がやりやすい)【図6-2】。これは、山側スキーに乗ったままエッジを切り換える練習であり、バランストレーニングにもなる。
図6-3 横滑りからターンへ  これができるようになれば、さらに山側スキーで横滑りをしたまま上体を谷側(斜面の真下)に向くようにひねる。するとスキーは自然にターンを始める【図6-3】。この時、エッジのゆるめ方が不完全で山側のエッジの角付けが残っているとターンは起こらない。
 これらができればパラレルターンはできたも同然だ。最後に、滑りながら先ほどと同じ練習をしてみる。即ち、山側スキー1本の斜滑降をしながら、エッジをゆるめて横滑り斜滑降、そして上体をひねり親指側エッジを立ててターンに入って行く。
 パラレルターンの新しいイメージが頭の中に入っただろうか!? このように具体的な操作方法を頭に入れ、練習することが上達の早道なのである。
 
 
*コラム1『パラレルターンの発見』
 私が、パラレルターンとシュテムターンの違いを発見したのは、学生の頃、野沢のチャレンジコースでポール練習をしていた時の事である。この頃の私は、まだスキーの後ろが少し開くパラレルもどきで滑っていた。
 ポールコースを滑り終わり、リフトへ向かう中急斜面でのこと。体もかなり疲れていたせいか、次のターンをする時に、階段を1段上がる様に「よっこいしょ」と、山側スキーの上に立ち上がってからターンに入ったのだった。すると、今までになくスムーズにターンに入れたのだ。「あれっ」と思い、もう一度やってみた。するとどうだ、やっぱりスムーズにターンができるではないか。何度も繰り返してみるうちに、「これは凄い」という確信に変わったのだ。そして、それ以後というもの、スキーの後ろをもはや開き出すことなく滑れるようになったのである。上達とは、ある閃(ひらめ)きにより、突然やってくるものなのだ。
 
 
*コラム2『ステンマルクは誰よりも早く山側スキーの山側エッヂに乗り換えていた』
 1970年代〜1980年代にかけてスキー界に君臨した北欧(スウェーデン)の天才レーサー『インゲマル・ステンマルク』。ワールドカップ大回転14連勝、それにレークプラシッドのオリンピックでの優勝を加えて、大回転15連勝の大記録は今も破られることはない。ワールドカップ通算86勝(回転40勝、大回転46勝)、これも2位のトンバの50勝に大きく差をつけて、いまだに破られることのない大記録である。
 彼のテクニックとパワーは誰よりも一段抜きん出ていた。「逆転マルク」と異名を持つように、2本滑って競われる回転、大回転種目において、1本目は安全運転でゆっくり滑っておき、2本目で全力で滑って1秒以上の大きなタイム差をも逆転して勝つというパターンを繰り返してきた。こんな勝ち方ができるのは、彼のレベルが群を抜いているからに他ならない。
 そして、彼がトップの座に居た頃に叫ばれだしたのが「交互操作」という片足を交互に使って滑る技術である。ステンマルクは常に片足を高く持ち上げて滑っていた。そして調子のいい時ほどより高く持ち上げていたという。
 私は、レークプラシッドでステンマルクが回転、大回転とも優勝した時、テレビにかじりついてその滑りを見ていた。私はその時、特にスキー板に注目して各選手の滑りを見ていたのである。するとどうであろう、ターンのマキシマム(ターンが一番深まったところ、ちょうど旗門の横)でステンマルクの板はグニャリと曲がり、その曲がりに沿って、まるで蛇か何かのようにその板がターンしていくのである。これは他の選手の板では見られなかった。いや、一人だけこれと同じ板の曲がりを見せた選手がいた。それは女子で優勝した「ハンニウェンツェルン」の板であった。
 ステンマルクのテクニックがいかに凄い物だったのか、今改めて問い直してみる必要があると思う。
 さて、その頃、そのような超一流選手の滑りを『究極のアルペンスキーテクニック』としてまとめた本が報知新聞社から出版された。それには、ステンマルクの滑りの連続分解写真がふんだんに掲載され、他の選手の連続分解写真と比較掲載されていたものだった。
 私は早速それを買い求め、まさにその本の頁がバラバラになるまでステンマルクの滑りを研究した。まさに私のスキーの教科書になったわけである。そんな中で、私はいくつも発見をしたが、特に、『ステンマルクは誰よりも早く外スキー1本でターンを仕上げ、そして次のターンの外スキーとなる山側スキーの山側エッヂに、誰よりも早く乗り換えていた』という発見もこの本から得た。
 つまり、私は偶然、スキーをしている最中に「パラレルターンの仕方」を発見したのだったが、その同じ技術をかのステンマルクが使っていることを教科書で確認したことになる。だから、私が説明した「パラレルターンのやり方」は、超一流選手も使っているやり方だと自信をもって練習していただきたい。
 隆盛を極めたステンマルクも、寄る年には勝てず、だんだんと勝てなくなってくる。そして、他の選手が勝ちだすと、スキーテクニックに関する世論も新しい選手のものを中心に紹介するようになる。そして、いつしか「交互操作はもう古い」と言われるようになっていくのだ。しかし、スキー板をぐにゃりとひん曲げ、蛇のようにスキー板がターンしていくあのテクニック、あのテクニックこそ『カービングターン』の真髄だと私は信じている。
 1989年3月10日、32歳のステンマルクは志賀高原で行なわれたワールドカップ最終戦で、生涯最後のワールドカップを戦った。優勝こそしなかったものの、回転競技の2本の滑走のうち、1本はラップタイムをたたき出したのだ。ステンマルクのテクニック健在を強く印象付けて、多くのファンに見守られる中、競技界から引退していったのだった。
 
 
1-2■ターン後半の暴走を止めろ!!
 
テクニック2『ターン内側の肩を外スキーにかぶせる』
 現在、全日本スキー連盟の教程からはシュテムターンという技術は無くなってしまったのか?(より難解な技術の説明がなされている)。しかし、本書では、プルークボーゲンと斜滑降の組合せで斜面を滑り降りていく技術をシュテムターンとして位置づけて話を進める。
 初心者がスキーをハの字形に開いて滑るプルークボーゲンは比較的簡単な技術で、誰もが無理なく修得できるのでこの技術については触れないでおく。
 いきなりパラレルターンへ話をもって行ったが、その前に一つ大事な技術があったのでこれを紹介しておこう。
 スキーをハの字形に開き、ターンをし、その後スキーを閉じて足を揃え斜滑降をする。そしてまた、山側のスキーを開きだし次のターンに移る。このシュテムターンをマスターできれば、たいがいの斜面は滑り降りられるようになる。早い人なら2、3日もあればここまでできてしまう。しかし、この時期のスキーヤーがよく出会う問題は、スキーの暴走という問題だ。
 斜滑降からターンに入ったのはいいが、スキーが真下を向いた頃に意に反してスキーが勝手にターンを止めてしまい、下に向って暴走を始めるのだ。要するにスキーが言うことを聞かなくなってしまうのだ。そのままスキーについて行くと危険なので自分から尻をついて転倒するか、必死にスキーを曲げ、ゲレンデの端まで行ってようやく止まるか、運が悪ければ頭から雪に突っ込んでしまう事になる。
 ここで皆さんに知っておいてもらいたい法則は、『体重がしっかりかかってない板は言うことを聞いてくれない』という法則である。言い換えれば『スキー板に自分の言うことを聞かせるには、その板に体重をしっかりかけなければならない』ということである。
 失敗を検証してみると、スキーが真下を向いた時、早くスキーを回してしまいたいという思いから無意識のうちに、体をターン内側へ強く傾けてしまう。適度な傾きは必要だが、過度な傾きは、体重を内スキーに移してしまい、その結果、体重が半分抜けた外スキーはターンするのを止め、勝手な方向に進み出すのである(いい板、そして自分に合った板ならこのような状態でもターンを続けてくれる場合がある。カービングスキーになってからいい板の出現率が高くなったと思うが、よくない板、自分に合ってない板も多いということを理解しておこう。そして、何よりしっかりした技術を身に付けておくことが重要だ)。
図7 ターン内側の肩を外スキーの上にかぶせる  これを防ぐ1つの方法は、『ターン内側の肩を外スキーの上にかぶせるように前に出す』事である【図7】。そうする事によって、体重が外スキーにかかりやすくなり、暴走する確立がぐっと減るのだ。まずは、やってみよう。

テクニック3『ストックを突いた腕を前に出す』(右ターンでは右腕を右前方へ、左ターンでは左腕を左前方へ)
 テクニック2とやっていることは同じだが、こちらの方が覚えやすいだろう。
図8 ストックを突いた手を前に出す  例えば、左へターンをする時は、左手のストックを突くだろう。突いた手をそのままにしておくと、体の方は前進しているので、手は後ろへ持っていかれる。そこで、手首を返してストックの先を後方にいなしながら、突いたその手は前(左前方)へもっていくようにする【図8】。すると、左の肩も前に出て行こうとするから、結局、テクニック2「ターン内側の肩を外スキーにかぶせる」ような運動になる。
 テクニック2は小回り、このテクニック3は大回りで使うといいが、根本的な違いはない。
 何も同じような技術を2つ並べる必要は無いように思われるかもしれないが、初級から中級に移る段階では非常に重要な技術であり、ターン後半にしっかり外スキーに荷重を維持することの大切さを改めて感じてもらいたい。
 これらの技術は、私も人から教えられたものであるが、やはり欠かせないテクニックなので紹介した。
 
 
1-3■交互操作はもう古いのか!? 同時操作もあるけど…???
 
 私は、パラレルターンを習得したのと同時に「交互操作」を身につけることとなった。「交互操作」とはターンの外側のスキーから、次のターンの外側のスキーへと交互に体重を移し換えていく操作の事である。いわば、歩く時のように右のスキーと左のスキーに交互に体重をかけながら滑っていく方法である。
 とはいえ、スキーは多かれ少なかれ誰でも交互操作をしていると言っても過言ではない。両足同時操作と言われている技術でさえ、体重は外スキーに多く加重しているのが普通であり、例えば、体重の7割を外スキーにかけて滑っている人は、体重の7割を左右交互にかけ換えながら滑っていることになるのだ。
 このように考えると、同時操作から交互操作まで滑らかに変化するものであって、ここからが交互操作、ここからが同時操作、として線を引く必要はないものだと考えられる。しかし一般的には、その究極の形、体重100%を外スキーにかけて滑っていく方法を「交互操作」と呼んでおり、本書でもそれに従って話を進めていく。
 この外スキーに対する荷重割合を最大にした形がどのようなメリットを持っているのかを知ることは、同時に「同時操作」の特徴をも知ることになるのだ。そして、「交互操作」を修得することは、その中間にある「同時操作」をも自ずと修得することになるのだ。
 
 今でこそ、この「交互操作」と言う言葉をスキー雑誌などで使わなくなってしまったが、そもそも「交互操作」が盛んに言われ出したのは、かの天才レーサー・ステンマルクがターン内側のスキーを雪面から高く持ち上げて滑っていた頃からである。そして、ステンマルクの戦績が落ちると共に「交互操作」という言葉はなりをひそめ、今度は「同時操作」という言葉が盛んに使われ出した。
 しかし、スキーの究極の原理がそう簡単に変わるものではなく、雑誌などが作り出す世論に振り回されるのは早計である。
 では、一世を風びした「交互操作」とはどんなものなのか? そしてそれはもう捨ててしまうような古い技術なのか? あの高く持ち上げられたステンマルクの内脚の秘密はなんだったのか? そしてまた「同時操作」とは何なのか? 改めて検証してみたい。
 
@『強い圧力を生み出す交互操作』
 交互操作とは、ターンの外スキー1本に全体重(100%)をかけてターンをしていく方法であり、外スキーにかける力を最大にしてターンをするのが交互操作だと言える。では、外スキーに強く力をかけるメリットとは何なのか?
 より速く滑るための技術として一般にカービングターンということが良く言われるが、カービングターンのカーブとは、曲線の意味ではなく“彫る”という意味である。雪面をえぐるようにターンをしていく技術であり、スキーの横ずれを防ぎ、スピードロスを最小限に抑えることができる“ターン技術”である。
 このカービングターンをするためにはスキー板に高い圧力をかけなければならないのだ。特に硬いアイスバーンを“彫る”には強い圧力が必要だ。強い圧力を生み出すには、両スキーに荷重するより1本のスキーに荷重した方が当然高い圧力が得られる。もっと言うなら、長いスキー板より短いスキー板の方が、さらに硬い板より柔らかい板の方が強い圧力を雪面にかけることができるのだ。
 しかし、板があまり短かくなり過ぎれば前後のバランスが不安定となるし、板が柔か過ぎれば新雪など柔らかい雪の時には滑りにくくなり、さらに板の耐久性の問題も生じてくる。
 そういう問題があるものの、自分の使用しているスキー板が脚力や体重、滑走速度にあったものかどうか再検討する余地は充分にある。
 実際、ステンマルクは、当時の常識とされていた長さより10p以上短い板をはいて競技に出場し、「絶対勝てない」という周囲の言葉を裏切り、みごと優勝を果たしたのである。常識と言うものの中に、いかにウソが潜んでいるかという好例でもあるが、常に原理に立ち帰り世間の常識や自分の常識を再点検する心づもりが必要である。
 話は少し横にそれたが、交互操作の一つ目のメリットを整理しておくと、
 
『交互操作とは外スキーに全体重をかけてターンしていく技術であり、より強くスキーに圧力をかけることができるので、雪面を“彫る”いわゆるカービングターンをするのに適している操作方法である』。
 
 
A『スキー技術の基本中の基本、外足荷重の究極の形』
 スキー板にかける圧力を最大限に強めるために生まれた交互操作だが、実はスキーの最も大切な基本『外足荷重』を突き詰めた究極のスタイルでもあるのだ。
 スキーのターン中、最も多く見られる失敗は内スキーに体重がかかり過ぎ、内スキーの小指側エッジが雪面にひっかかって転倒したり、外スキーがターンを止めて暴走したりすることである。トップレーサーでさえも、競技中に内スキーに体重がかかり過ぎて転倒してしまうケースがあるくらいだ。
 子供用の自転車で後ろに補助輪をつけている状態を思いだして欲しい。補助輪があればこける心配はないが(安定性の向上)、非常に曲がりにくい(機動性の低下)。ターンの内スキーというのはちょうどあの補助輪と同じ働きをしていると考えてもらえばわかりやすいだろう。上級者にとって補助輪(内スキー)は邪魔な存在なのである。
 
B『素早い動きに対応できる交互操作』
図9 イスに座って脚の曲げ伸ばし実験  さて、ここで一つ皆さんに実験をしてもらいたい【図9】。まず椅子に座り、足を少し床から浮かせて両脚を同時に曲げ伸ばししてみてみよう。10回ほど続けるとよくわかるが、脚部の運動が上体に伝わり、上体を揺らしてしまうだろう(上体は脚の動きを打ち消すように動く)。
 今度は片足ずつ交互に曲げ伸ばしをしてみよう。今度はどうだ。上体は脚部の動きに影響されず、じっとしているのが分かるはずだ。さらに、交互に動かす方が、両足同時に動かすより速く動かせる事が分かる。
 このことをスキーにあてはめると、まず、片足を上げて滑る交互操作では、小さなコブくらいならその振動を上体へ伝えることなく脚部で吸収して滑ることができる。そして、素早く切り換える必要のある連続小回りターンに交互操作は向いている、ということになる。言い換えれば、この交互操作ができればウェーデルンなる技術もほぼ習得したことになるのだ。
 
 
*コラム3『ストレートフラッシュを攻略せよ』
図10 ストレートフラッシュ  学生時代、競技スキーをしていた私は、回転という種目の中に出てくる「ストレートフラッシュ」【図10-1】という旗門セットが大の苦手だった。このセットは、ポールを3〜4旗門、短い間隔でまっすぐ下に向かって並べて立てたもので、スピードを落とさず素早い切り換えが求められるセットなのである。私はそこまで順調に滑って来たとしても、必ずそのストレートフラッシュで止まってしまったり、コースアウトしてしまったものだ。
 ところが、先に述べた山側スキーの小指側エッジに体重移動をする方法と、この交互操作を憶えたおかげで難なくクリアできるようになったのだ。
 言い換えれば、交互操作やターンの切り換えを練習するには、緩〜中斜面でよいから、ポールを数本、短い間隔(4〜6m前後)で立てて滑る練習をすれば上達が早くなるのだ【図10-2】。この時注意する点は、ある程度スピードを出してポールコースに入る事と、出来るに従って、ポール間隔を狭め、難度を増していくことである。この時使うものとしては、硬いポールより、ゴルフパットのケースのように柔らかいポール状のものを使った方が恐怖心も起こらず、ベターである。
 
*同時操作(両足荷重)のメリット
 ここまで、交互操作の有効性を説明してきたが、それでは交互操作が万能か、と言えばけっしてそうではない。脚力が強くない人や、雪面の状態、さらに目標とする滑り方によっては同時操作の方が有効となることも多いのである。
 例えば、コブ斜面を滑るときは脚にくる衝撃が強く、片足ではふんばりきれない。また新雪など柔らかい雪面で交互操作を行うと、強い圧力がかかり過ぎ、スキーが沈み込み過ぎてしまう。直滑降で速く滑る時にも両スキーに荷重を分散させた方が速く滑れる。そして、のんびり楽に滑りたい時など、同時操作の方がはるかにいいのだ。
 しかし、あくまで基本の『外足荷重』を忘れてはいけない。つまり、体の中心部にある親指側エッジで体重を支えることができる外スキーへの荷重を最低でも7割以上に保つことがバランス良く滑るための基本だと言える。
 
 
1-4■内スキーの使い方
 
 さて交互操作では『内足を持ち上げる』操作を行うが、一見無意味なようなこの操作の中に、実は様々なメリットがかくされているのだ。それゆえに、持ち上げ方にも様々なコツがあるのでそれを伝授しよう。
 
テクニック4『一旦上げた内スキーは、そのターンが終わるまで下げてはいけない』
 一流選手がレースの旗門の横を滑っている時の写真をよく見てもらいたい。内スキーの膝が胸につくぐらいにまで曲げられている。これは「内脚を曲げよう」という強い意志が働いているからである。
 ターンしている時、内スキーを持ち上げ続けるにはけっこう強力な意志がいる。内スキーを雪面に下ろすと楽だからである。しかし、もしあなたがカービングターンをしたいと願うなら内スキーを持ち上げ続けよう。そして『一旦内スキーを持ち上げたら、一つのターンが終わるまでその内スキーを少しでも下げてはいけない』。もし内スキーを下げると、外スキーにかかっている高い圧力が減圧されてしまうからだ。
 一般的に物を持ち上げる時はその反作用が下にかかる。例えば、エレベーターが上昇している時は中に乗っている人は(見かけ上)体重が重くなるし、反対に下降中のエレベーターの中では軽くなる。
 また、人間の体は、片方の脚の膝を曲げて持ち上げれば、反対側の脚は伸びようとする動きが自然に出てくる。これも実験してもらうとわかることだが、床の上に片足で立ち、持ち上げている脚の膝をだんだん高く持ち上げていくと、ある位置より上へ持ち上げようとすると、今度は反対側の脚の膝が伸び始める。膝を胸に付く位まで高く持ち上げた時には、反対側の脚は伸びきっている。
 即ち、内スキーを持ち上げる事により外スキーに体重以上の力をかける事ができ、さらに外スキーの脚が伸びてくるのでより強い圧力を外スキーにかける事になるのだ。反対に上げていた内スキーを下げると、外スキーにかかっていた圧力が下がってしまうのだ。
 スキー板に強い圧力をかける操作を「加圧」というが、加圧する方法はいくつかあり、片足になって1本のスキーに全体重をかけるのは最も単純明快な方法だが、その他にも、蹴る(膝を伸ばす)、反対に空缶を踏みつぶすように踏んばる(高い姿勢から低い姿勢になりパッと止める。止めた瞬間が加圧)などがある。内スキーを高く持ち上げるのも加圧操作の一つと言えるだろう。
 とにかく、一度上げたらターン終了まで内スキーを下げない、という1点に注意して滑るだけで、スキーの切れが見違えるように良くなるスキーヤーが多い。特にターン後半部でスキーが「ギュン」と返ってくるようになる。とにかく騙されたと思ってやってみて欲しい。
 
テクニック5『内スキーは体軸の傾きにあわせ、より高く持ち上げる』
 一旦持ち上げればそのターンが終わるまで下げてはいけない内スキーだが、反対に上げていくのはOKだ。いや、ターン後半になるにしたがって体軸の傾きが大きくなるため、内スキーが雪面と接触するのを防ぐために(同時操作の場合でも内スキーの荷重オーバーを防ぐために)より高く上げざるをえないのだ。
 ターン前半から後半にかけて、内スキーを少しずつ高く持ち上げていく事により、先に述べたエレベーターの原理で、外スキーに加圧する事にもなるのである。
 結果的には、レーサーのポスターのように、内スキーのヒザが胸につく位まで内脚を曲げることになり、雪面をえぐるカービングターンができるようになるのだ。
 
テクニック6『素早く内スキーを外スキー側に引き付けることによりターン能力がUPする』
図11 内脚は素早く引き寄せる  このテクニックは、なぜそうなるのかはっきりとした説明はできないのだが、私の経験を元に話をしてみたい。
 私が札幌の手稲山(テイネハイランドスキー場山頂)でスキーシーズン終了後に山ごもりをしてスキー修業をしていた時のこと、ストレートフラッシュ(真すぐ下に向かって直線上に短い間隔で並べた旗門セットのこと)をさらに難しくして、短い間隔で左右に少しづつ振った旗門セットを滑る練習をしていた。
 これが非常に難しく、どうしてもクリアできないで何度もチャレンジしていたのだった。ところが、『内スキーを素早く(外足側に)引き付ける(引き寄せる)』事を意識して滑った時にその旗門をクリアすることができたのだ。
 「やった!!」と思い、その後、その点に注意して何本も滑ったが、全てクリアすることができたのだった。
 ターンを切り換える時に、外スキーから次の外スキーへ体重を移し換える。移し換えたらすぐに体重の抜けた方のスキー(即ちターンの内スキー)を、外脚側に素早く引き寄せるという操作。内スキーを持ち上げるだけでなく『外脚側にピシッと引き付ける』。この事が非常に重要な意味を持っていると言う事なのだ。
 ただ、これはどういう理由でそうなるのか、はっきり説明できないが、あえて直感的に言うなら「内スキーを持ち上げて、ただブラブラさせておけばバランスが崩れ易い。内スキーを外脚に引き付ける事でバランスを1点に集中させることができる」からなのではないだろうか?
 
 以上、内脚の使い方について3つのテクニックを述べてきたが、まだまだ私の気付いてない方法があるかもしれない。これらは誰に教わることもなく、自分自身で発見してきたテクニックなのだが、スキーの世界というものも、やればやるほど奥深さを感じるのである。
 
*膝と膝を擦り合わせるように内脚を絞り込む。
 以上の内脚の使い方を発見するよりも以前、まだ中級者の頃には、「膝と膝を擦り合わせるようにして滑る」と、調子よく滑れることが経験上わかっていた。よく転ぶ、スキーが思うようにターンしない、といった時に、「膝と膝を擦り合わせるように」して滑るとうまく滑れるのである。そして、そうやって滑っていると、スキーパンツの膝の内側に毛玉ができるようになってくる。スキーパンツを片付ける時、その毛玉を発見して「あっ、ここに毛玉ができることが上手く滑れることの証なんだ」と、当時は思ったものである。
 いずれにせよ、内脚を外脚に引き寄せて滑ることは、うまく滑る上での重要なテクニックであることに変わりはないと思われる。
 
*外スキーの圧力が下がるとなぜ失敗するの?
 ここで外スキーの圧力が下がるとなぜ失敗するのか説明しておくと、
 
@外スキーの圧力が弱まる→Aスキーのたわみが浅くなる→Bターン半径が大きくなる→C遠心力が弱くなる→D内側に倒した体軸と遠心力とのバランスが崩れる
 
 という順路をたどる。さらに、
 
C遠心力が弱くなる→@外スキーにかかる圧力がさらに下がる→Aスキーのたわみがさらに浅くなる→Bターン半径がさらに大きくなる→C遠心力がさらに下がる→@→・・・・・
 
 という悪循環が加わって、アッと言う間に失敗につながるのである。
 反対に外スキーに体重をバランスを崩さずにかけ続けていれば、ターン後半部には
 
@遠心力に重力(斜面下へ引っ張ろうとする力)がプラスされる→Aより強い圧力が外スキーにかかる→Bスキーがより大きくたわむ→Cターン半径が小さくなる→Dより強い遠心力が生じる→Aより強い圧力が外スキーにかかる→B・・・・
 
 と好循環が生じて、雪面をえぐるようなカービングターンができるのである。
 
 
*急斜面ほど、ターン前半部と後半部の体軸の傾きの差が大きくなる。
(この項では左右の傾きについて説明する。前傾、後傾については別項で説明)
図12-1 体軸の傾きの変化  例えば、スケートリンクのように傾斜の無い水平面上で一定スピードでターンをする場合は、ターン前半部と後半部の体軸の傾き角度は一定である。ところが、斜面中では、ターン前半部の雪面に対する体軸の傾きは小さいのに対し、ターン後半部では大きくなる。そしてその傾きの差は、斜面が急になればなるほど大きくなる。それゆえに、急斜面では、ターン前半体軸を大きく傾ける必要はないが、ターン後半には体軸を大きく内側へ傾け、同時に内スキーを高く持ち上げる必要があるのだ【図12-1】。
 
 理由を説明すると、ターン前半部では遠心力が斜面の上方に向かって働くので、斜面の下方に向かって引っ張る力(重力の分力)と相殺されるため、ほとんど遠心力を感じないで済む。反対に、ターン後半部では遠心力と斜面下方向に引っ張る力が同じ方向となるのでターンの外側に引っ張られる力がより強くなるからだ。そしてこの傾向は斜面が急になればなるほど強くなるのである【図12-2】。

図12-2 合力図 
 だから、急斜面ではターン後半しっかり体軸を内側へ傾け、内スキーを高く持ち上げねばならないのである。
 反対に、緩斜面では斜面下へ引っ張る力が弱いから、遠心力との相殺や強め合う作用は急斜面ほど強くないので、ターン前半と後半における体軸の傾きの差は小さくなり、結果的に急斜面ほど強く体軸を傾ける事も少ないのである。
 この事が分かっていれば、緩斜面と急斜面の操作方法の違いに納得でき、変な迷いが生じることもないだろう。

 

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