目次へ  第1章  第2章  !8 HOME

第3章
様々な状況に応じたテクニック

 
3-1■ポール滑走
 
テクニック13『2旗門先のポールを見よ』
 旗門を立てたコースを滑る「ポール滑走」(制限滑走)では誰もが、ゲレンデを自由に滑るフリー滑走中にできる技術以上にはうまくは滑れないものである。ポールで制限されたコース内で自分の持てる力を100%発揮することがポールコースを滑る上で最も重要となってくる。
 ところが、ポールコースを滑ると、ついつい目の前のポール(旗門)に目を奪われて、ターンの大きさや深さが分からない状況で滑ってしまう。それ故、目の前のポールを通過したはいいが、次のポールが思わぬ方向にあり、うまく通過できなかったり無理に回し込んだりする結果となる。
 これを防ぐのが『2旗門先のポールを見よ』というテクニックである。普通、旗門は青と赤を交互に立てていくから、青の横を滑っている時は次の青の旗門、赤の横を滑っている時は次の赤の旗門を見るようにする。そうしながら視界の端の方で目の前の旗門を捉えるようにするのだ。そうすることによって、今いる地点から次のポールまでのラインと、次のポールからその次のポール迄へのラインの2本の折れ線コースが見えるようになる。折れ線コースが見えることでどの辺まで今のターンを回し込めばいいのかがだいたい分かり、スムーズにターンを連続させる事ができるようになるのだ。目の前のポールしか見てない人は1本の直線しか見えず、ターンの大きさや深さを推し量ることができないのである。
 
*コラム5『邪魔をされたおかげで…』
 私がこのテクニック『2旗門先のポールを見よ』をまとめ上げるまでには長い道のりがあった。しかし、最初のきっかけとなった“事件”は次のような事である。
 北海道へ渡り2年目以降、ニセコ比羅夫スキー場のペンションMtベース(現ペンションまろうど)に居候しながらトレーニングしていた。ペンションの名前を借りて実際は一人でポールを立てて練習していたのだが、その時もちょっと完走しずらい難しいセットを立てて練習していた。
 ところが、そのコースに一般スキーヤーの団体(5〜6人)が滑り込んできたのだった。私がスタート時点に来た時はもうかなり前の方を滑っていたのでぶつかることはないだろうと思いながらも少しは気になるので、前方の様子を見ながら滑り始めた。すると、なんと、今までつまずいていた旗門の所を難なくクリア、通過できたのである。
 「そうか、前の方を見ながら滑ればうまく滑れるのだ」というのが最初に得たコツであったのだ。だから最初は漠然と6〜7旗門位前の方を見ながら滑ったのである。このテクニックが今の『2旗門前』までに集約されるにはまだしばらく時間がかかったのである。
 いつの頃だったかハッキリとは憶えてないが、手稲山時代の担いで上がるトレーニングの良さを見直し、リフトがあるのに担ぎ上げながらトレーニングしていた時の事だったと思う。回転系の間隔の短いポールセットでかなり振りの大きな難しいセットを練習していた時の事である。振りが大きいせいでどうしてもターン後半部に“上半身がターン方向に回り込んでしまう”いわゆるローテーションという失敗が発生していた。そうなると上半身と下半身の逆ひねりが作れず、結果として次のターンへの素早い切り換えができない状況に陥っていた。
 その時たまたまだったか、意図してかは忘れたが、漠然と前を見るより2旗門前のポールを見ながら滑ればローテーションが防げ、コース取りもスムーズにそのセットをクリアできることが分かったのだった。この時点で、視線ははるか前方ではなく2旗門先を見れば必要十分である事が分かり、このテクニックが完成したのである。
 
テクニック14『スキーを平行に横方向へステップする』
 今はもう昔となったが、フィルメーヤーとステンマルクがパラレルスラローム(平行にセットされた2本のコースを2人が同時に滑ってタイムを競うもの)を見ていた私は、ステンマルクの蹴りの強さに驚いた。一蹴りする度に隣のフィルメーヤーをグイグイ突き放していくのだ。フィルメーヤーとてステンマルクに次ぐアルペンスキーの実力者であったのにである。そのステンマルクの滑りが頭に焼き付いた私は、緩斜面をより速く滑るための蹴りを修得できないかと考えた。体重の軽い小柄な私は、緩斜面でのスピードアップが最大の課題でもあったのだ。
図21 スキーを平行に横方向へステップする  あれこれやってみて、結局一番スピードアップを計れたのが次の方法である。まず、スキーをまわしこむ量を必要量より減らし、ターンをできるだけ浅く仕上げる。そのままいくと目の前の旗門にぶつかるから、ここで横へ大きく飛ぶように蹴りを入れ(スキーを平行にステップさせ)、軌道修正と強烈な加圧を同時に行うのである。ここで大事なことは、やはり板の面に対して垂直方向に蹴るということで、横方向に蹴るということはそれだけ体軸の傾きを大きくして蹴らなければならないということである【図21】。
 
*警告 ライン取りにこだわり過ぎるな!
 競技スキーで旗門間を速く滑り抜けるテクニックとして「ライン取り」がかなり重要視されている。特によく言われるのは「できるだけポール(旗門)に上から入っていくように」ということである。「上から入っていけ」と言うのは、「ターンのマキシマムを旗門より上のほうへもっていく」、言い換えると「できるだけ前のターンを上のほうまで切り上げて、次の旗門に余裕を持って入っていけるコース取りをしなさい」ということである。
 私は学生の時、この忠告通り、しっかり前のターンを仕上げて余裕を持って次のターンへ入っていく滑りを競技会で実行し、「よし、完璧にできた」と思った滑りが、メチャクチャ遅いタイムだったのに愕然としたことを憶えている。そして、それが遅い理由は、その後何年ものあいだ謎であった。雑誌などで当時よく取り上げられたライン取りをすっかり信じ込んでしまっていたからである。
 そして、その謎が解けたのは、北海道へ渡り、ニセコスキー場で一人タイムを計りながらポール練習(旗門を立てて競技スキーの練習をすること)を行っていた時であった。私は、どうにかしてタイムを計って滑りたいと考え、手袋にストップウォッチをマジックテープで取り付け、さらに時計が手袋から外れても落ちてしまわないようにゴムひもで時計と手首を結び付けて装着し、タイムを計測しながらポール練習を行った。
図22 ライン取り  するとどうであろう、今まで「ライン取りは重要だ」と信じ込んでいたのに、それが全く覆される結果が出たのである。斜面は中・緩斜面である。ターンに失敗して自分の狙っているライン(コース)より下に落とされた時、軌道修正しようと無理にラインを戻して滑った時のタイムより、同じコースで失敗した時に、ラインを戻さず、落ちたラインのまま、体勢は崩れながらもどうにかこうにかターンを続けてゴールした時のタイムの方が断然速いのである【図22】。
 最初は「エッ!?」とビックリした。しかし、何度やっても同じ結果が出る。そこで初めて今まで信じ込んでいた「ライン取り」の神話が崩れたのであった。そして、今度はなぜそうなるのかを真剣に考えた。そして得た考えはこうである。
 『ラインを無理に戻すターンは、より多く回し込まなければならないから、かえって減速してしまう。中・緩斜面では一旦減速すると、それは大きくタイムロスにつながるのだ。それより旗門に遅れながらも無理なターンをしないほうがスピードが落ちないので、結果的には速いタイムが出るのだ。ライン取りが重要になるのは、それがコースアウトにつながるような急斜面での話で、しかし急斜面でも、できるだけ切り上げないでターンをしたほうがタイムは速い』ということである。
 そして、雑誌などで取り上げられているスキー理論がいかに不確実なものであるか、そしてそれらに振り回されてはならないことを痛感したのである。
 
 
3-2■アイスバーン
 
*技術、用具、チューンナップの3つの要素が満たされないと滑れない。
 誰もが苦手なアイスバーン、エッジがひっかからずにツルッとスキーが流されてしまう。初級者にとっては恐怖のゲレンデであるが、上級者にとっても緊張が高まる雪面であることに変わりはない。
 アイスバーンを滑るには的確な技術が必要であるのはもちろんだが、それ以前にスキー板の柔らかさ、長さ、さらにはエッジがしっかり研がれているかという点が重要になってくる。単純に考えればスケートリンクの上を滑るようなものなのだから、しっかりと氷面にエッジが喰いつくよう高い圧力を生み出さなければならない。そのためにはまず、自分の体重と滑走スピード、ターン半径にあった板を選ぶ必要があるのだ(スキー板の選び方については前述のカービングターンの項参照)。おおざっぱに言うと柔らかい板の方が、さらには短い板の方が氷面への喰いつきがよくなる。
 さらに、いくら自分に合った板を履いていても、エッジが丸まっているようではアイスバーンは滑れない。エッジのチューンナップを行って、自分の爪がかかる位(爪の表面でエッジをなぜてみて、爪の表面が少し削れる位)でなければ硬いバーンは滑れないのだ。
 安比のスクールに居た時の事、オーストリアのデモが我々のスキー指導に来ていたが、彼が新しいスキーを渡された時まず最初にやったのは、ヤスリをもってギンギンにエッジを研いだ事である。エッジの側面(サイドエッジと呼ぶ)をかなり大胆に削り、鋭角(普通は直角になっている)にエッジを仕上げていたのが印象的だ。
エッジをしっかり研いで置くことがいかに重要であるかは、彼の例を見てもわかるだろう。
 こうして自分に合った、エッジの研がれたスキー板をまず準備することがアイスバーン攻略の第一歩である。これらの下地があってこそ、テクニックが生きるのだ。
 
*ターン前半で外スキーに意識的に加圧する必要がある。
 ターン技術的には、テクニック8『抱え込み押し出しによるターン』、テクニック12『ターン切り換え時、前のターンの外脚は伸ばし、次のターンの外脚はできるだけ曲げた状態で体重移動する』の技術が有効だ。ここでは、なぜそれらの技術がアイスバーンに有効かを解説しておこう。
 重要なポイントは、『ターン前半で外スキーに意識的に加圧する』事である。アイスバーンを滑っていて一番問題になるのは、ターン後半で、スキーがガガガガガガッと下へ落とされてしまうことであろう。こうなってしまう原因の一つはターン前半部分の雪面(氷面)への食いつき不足である。ターン後半に症状が現れるので、後半部の滑り方に問題があるように思えるが、実はターン前半部の状況で後半の滑りが決ってくるのだ。ターン前半にしっかり加圧し、スキーを雪面に食いつかせていけば、後半部は遠心力と斜面下へ引っ張る重力が加わり、ますます雪面を深くえぐることができるのだ。ただし、脚にかかる力もかなり大きいものになるので脚力と共に、脚を伸ばしてその力に耐える体勢が必要になる。
図23 アイスバーン向けテクニック  テクニック8とテクニック12に共通しているのは、『切り替え時に膝を曲げる→ターン前半に膝を伸ばしていく』という操作であり、『ターン前半で外スキーに意識的に加圧する』事ができるのである。さらに、「ターン後半部は脚を伸ばして強い力に耐えられる体勢」を作ることができるのもこれらの共通点だ。
 反対に両者の違いは、膝を曲げ伸ばしする操作を両脚同時に行うか、片足交互に行うかの違いと、脚を伸ばしていくタイミングの違いである(抱え込み押し出しの方が、伸ばし始めるタイミングが遅い)【図23】。片足交互に行うテクニック(ステップターン)ではより素早い切り換えとより強い圧力を生み出すことが可能だが、それだけ脚への負担も大きい。脚力の弱い人は、両脚同時操作の「抱え込み押し出し」によるターンをおすすめする。
 
テクニック15『たたきつけるように蹴りをいれて強い圧力を生み出す』
 アイスバーンでショートターンをする場合、前項で紹介した テクニック8『抱え込み押し出しによるターン』が有効だが、これをもう少し発展させて、ターン最後で脚を伸ばす時に両脚を強く踏み切ってジャンプし、空中で抱え込んでスキーのエッジを切り替え、着地する時に両足でアイスバーンを蹴りつけるようにして高い圧力をかけてスキーをアイスバーンに食い込ませてターンする方法もあり、この方法はより強力だ。
 ニュージーランドのトロアスキー場でインストラクターをしていた時、あまりに固いアイスバーンに閉口し、ついにこんなテクニックを編み出したものだ。この技術は帰国後、安比でさらに発展させ、テクニック17『ズレと切れの複合ウェーデルン』へと進化していった。
 
3-3■コブ斜面
 
テクニック16『コブ斜面はテールジャンプがカギ』
 コブ斜面を滑る時、溝に沿って滑るのは比較的簡単である。しかし、溝に沿ったまま滑り続ければスピードオーバーになり暴走、クラッシュの危険がある。それでは溝に反した方向にターンするにはいったいどうすればいいのだろうか?
図24 コブ斜面で溝に逆らって滑る  例えば、溝が右方向に向かってカーブしているところを想像してもらいたい。右方向にターンして行くのは問題ないが、そこで左方向へターンしようとすれば何が問題になるのだろうか?
 じっくり考えてみると一番の問題は、ターンを切り換えるためにテール(スキーの後ろの部分)を右側に振ろうとしても、右側のコブが邪魔になって振ることができない事である。トップ(スキーの先の部分)には反りがついているので比較的自由にどの方向へでも突っ込んで行くことができるのだが、テールはそうはいかないのである。
 そこで、この問題の解決策として考えだしたのが「テールジャンプ法」である。先ほどの状況で左へターンを切り換える時にテール部を軽くジャンプさせながら右へ振り、コブの横腹あたりに載せてしまうのである。そういう体勢ができると、溝を無視して左方向へターンする事が可能となるのだ【図24】。
 これができるようになると、ある程度溝を無視してコブ斜面を自由に滑れるようになるのだ。ただし、その前提として、スピード制御のウェーデルンを身につけておく必要があるだろう。それについては後述する(テクニック17『スピード制御のウェーデルン』参照)。
 また、コブ斜面では強い衝撃が脚部にかかるので、片脚交互操作を使わずに、7:3、あるいは6:4位の両足荷重を使って滑る方が楽である。競技スキーに専念していた頃は片脚でコブ斜面を大きくターンしながら滑ったものだが、インストラクターのようにきれいにウェーデルンで滑り降りるにはその方法では少し無理があったようだ。
 
*テールジャンプのトレーニング法
 このテールジャンプは、競技スキーをやる人なら分かると思うが、ジャンピングスタートのような要領である。テールジャンプをマスターするには、まず次のような練習をすればいいだろう。
 
図25 テールジャンプの練習法 @斜度の無い平坦な場所で、両スキーを平行に揃えて立ち、両手を前方へ突き出し、両ストックをスキーの両脇、なるべくトップに近い雪面へ突き立てる。
 
A体重を両ストックにかけるようにして上体を前へ乗りだし、同時にスキーは後方へ蹴り出すようにしながらテール部を瞬間的に浮かせる(テールジャンプ)。後方へ蹴り出す時は両足同時より、どちらか片方を先に蹴り上げながらもう片方を追随させるようにすると蹴り易い【図25】。
 
B以上ができるようになれば、今度は緩斜面でスキーが滑って行かない方向にスキーを揃えて立ちながら、@Aと同様の事を行う。
 
図26 テールジャンプの練習法2 Cそれができるようになれば、同様に緩斜面でスキーが滑って行かない方向にスキーを揃えて立ち、今度はテールを真後ろへではなく、テールジャンプした瞬間に少し山側に振る。(この動作で左右のエッジを切り換える)【図26】。
 
D以上ができるようになれば、次に中斜面で同様の事をやってみる。斜度が大きくなるにつれ、Cの操作でテールを山側に振り、エッジを切り換えたなら、スキーが滑り始め次のターンが自ずと始動するだろう。ターンが始動すればそのままワンターンし、次のターン切り替えの所で一旦止まり、先ほどの操作を繰り返す。慣れてきたら、一旦止まらずに滑りながら連続してやってみよう。
 
E以上ができるようになれば、急斜面でも同様にやってみる。
 
 
*コブ斜面でのテールジャンプトレーニング
 前述の要領でテールジャンプができるようになれば、いよいよ今度はコブ斜面での練習である。まずは中斜度位のコブ斜面でコブとコブの間の溝があまり深くない所から始めよう。
 
図27 テールジャンプの練習法 コブ斜面1 @まず、コブの下側にスキーが滑って行かない方向にスキーを揃えて立つ。
 
A両ストックをスキーの前方・両脇に突きテールジャンプをしてテールを山側に振り、テールをコブの腹に載せ上げる。
 
Bそのまま滑り出し、ワンターンして止まる。@〜Bを繰り返してみる【図27】。
 ここまでは、平らな斜面で行った練習とあまり変わらないであろう。慣れてきたら次のステップへ進もう。
 
図28 テールジャンプの練習法 コブ斜面2 C今度は、溝が斜め下の方を向いているあたりを選び、スキーを揃えて立つ(スキーは溝に沿わす)。スキーも斜め下の方向を向いているので滑り出そうとするから、両ストックをスキー両脇前方に突いて止めておく。
 
D次にテールジャンプをしながらテールを振りコブの横腹にテールを載せ上げる。
(この時、スキーのターン方向を、溝がカーブしていく方向とは逆の方向へ導くために、テールを振る方向は、右へカーブしていく溝では右へ、左へカーブしていく溝なら左へ振る)。
 
Eテールをコブの横腹に載せ上げたらストックをはずし、溝に逆らって滑ってみる。スキーのトップ(先の部分)は反りがついているので、エッと思えるラインでもなんとか滑れてしまうものである。ワンターンして止まり、適度な場所を探しながらC〜Eを繰り返す【図28】。
 
F以上ができるようになれば、斜め下ではなく、真下を向いた溝からも始めてみよう。
 
 以上のようにして、コブ斜面でテールジャンプを修得していくが、最初は両方のストックを突きながら、テールを大きくジャンプして滑っているのでカッコ悪いと思われる方もいるだろう。しかし、練習を積み重ねるうちに無駄な動きがなくなってくるのである。片方のストックだけでもテールジャンプができ、ジャンプの高さも必要最小限のものにしていくことでスムーズな動きとなっていく。その域に到達するには、ひたすら練習するのみである。
 一番最初にも述べたが、上達の過程とは、まず最初に目的とする操作の明確な方法を頭の中にインプットすること。次にその方法が実現できるよう練習を繰り返すことにある。しかし、多くの中・上級スキーヤーは最初の「明確な操作方法」を知らないまま、ただ滑り続けている人が多い。漫然と滑り続けるより、目的となる明確な操作方法を頭に描きながら滑り込む方がはるかに上達が早いのである。
 コブ斜面でも今、新たな操作方法のイメージが頭にインプットされたわけであるから、上達の速度はこれから飛躍的に高まるのであろう。
 
*ダブルストック
 テールジャンプの練習でやったように、両ストックをスキーの両脇(なるべく前方)に付くやり方はスキー界では「ダブルストック」と呼ばれている方法である。ダブルストックはテールジャンプの練習にもちょうどいいが、本来はストックを付く時に体が(前の)ターン方向に過度にねじれてしまう事(ローテーション)を防ぐために用いられる技術で、競技選手がよく使う方法でもある。
 
 
3-4■コブ斜面をゆっくり優雅に滑る
 
テクニック17『スピード制御のウェーデルン』
 さて、コブ斜面で溝に逆らって滑る方法は以上のようであるが、ウェーデルン技術が未熟な人はまだまだスピード制御の点で苦労するだろう。コブ斜面を、ゆっくり、優雅に滑るためには「スピード制御のウェーデルン」を身につける必要がある。 このテクニックはスキー指導員には広く知られている技術で、昔は「小回りターンB」と称して検定種目にも掲げられていた。しかし、一般的には特に意識して練習されることもない技術で、どちらかとう言うと上級者であれば自然に身につけてしまっている。
 ところが、真の上級者になりきれない上級者にコブ斜面や急斜面でのウェーデルンを指導していると、この技術ができてない人が意外と多い。コブ斜面でスピードオーバーしてしまうのも、急斜面でウェーデルンをしようとしてターンがふくらんでしまうのも、そこに原因があるようだ。
 「スピード制御のウェーデルン」とは、簡単に言えば左右の「横滑り」の連続である。横滑りとは、スキーを前に滑らせるのではなく、エッジをゆるめてスキーを横方向に滑らせる技術である。斜面に対してスキーが滑って行かない方向にスキーを揃えて立ち、その状態からエッジの角付けをゆるめるとスキーは横向きのまま下へ滑り出すのである。
 横滑りを突き詰めて言えば、「エッジの角付けを調整する技術」に他ならない。ターン中にエッジの角付けをゆるめて横滑りを生じさせる事によりスピードを制御するのである。角付けが強く横滑りが生じなければ、いわゆる切れるターンであり、スピードも落ちない。角付けを弱めて横滑りが生じれば、いわゆるズレるターンとなり、減速する。
 さて、切れるウェーデルンはスピードもあり難度も高いが、ズレるウェーデルン、(スピード制御のウェーデルン)は比較的やさしいのでウェーデルン入門用としても練習する価値はある。
 ここでお気付きの方もおられると思うが、このスピード制御のウェーデルンは、パラレルターンの練習部分と似ている。ただ、パラレルターンの練習は、ターン切り換え部分の練習であるのに対し、このウェーデルンはターンそのものを横滑りで行うものである。
 
*スピード制御のウェーデルンの練習方法
 まず、横滑りをおこす必要があるので、緩斜面よりできるだけ斜度のある中斜面や急斜面で練習する方がやり易い。さらに整地された斜面を選ぶようにする。
 
@斜面に対してスキーが滑って行かないように横向きにスキーを揃えて立ち、その状態からエッジの角付けをゆるめて横滑りをする。エッジの角付けをなかなかゆるめられない人は、両膝を横へ(谷側へ)移動させるイメージで行う。
 斜面の真下に向かって横滑りができるようエッジの角付けを調節する。この時、角付けを完全にゆるめてスキーを雪面に対してフラットにまでする必要はないが、ゆるめ方が弱いと斜滑降が混じる事があり、斜面の真下ではなく斜め下に向かって横滑りしてしまう。角付けの微妙な感覚を身につけ、スキーを真下へ横滑りさせられるよう練習する。
 
A左右の向きを替えて練習し、左右偏りなくどちら側でも自由に横滑りができるようにする。
 
B以上ができるようになれば、次は横滑りを左右交互に連続して行う。
 まず一方の横滑りを始めたら、山側のスキーに体重をより多くかけ、山側のスキーで横滑りを行うようにしながら上体を谷方向に向ける(ひねる)。するとスキーはターンして向きを変えることができる。反対方向の横滑りを真下に向かって続けながら、再び山側のスキーに体重をかけてから上体を谷方向へ向ける。するとまたターンして向きが変わる。以下繰り返しである。
図29 スピード制御のウェーデルン  ここでのポイントはターンする時に斜面の横方向へ大きく移動しない事である。斜面真下に向かって横滑りを行うのが目的であり、下から見た時に、自分自身の軌跡が一直線に真下へ向かっていることが望ましい(即ちウェーデルンの状態である)。エッジのゆるめかたが少ないと、ターンした時に斜滑降が混じりスキーは横へ走る。そうなると、自分自身の軌跡は左右に振れながら下へ向かうので、ウェーデルンというよりは中位のパラレルターンになってしまう【図29】。
 
C以上ができるようになれば、今度は上体を常に谷方向に向けたまま、横滑りを左右連続して行う。ただし、スキーが完全に横に向くまで回し込む必要はなく、横滑り状のターンの連続として行う。見た目はウェーデルンそのものとなる。これが即ち「スピード制御のウェーデルン」である。
 
D以上ができれば、今度はテールジャンプとスピード制御のウェーデルンを組み合わせて滑ってみよう。テールジャンプは、左右のターンを切り換える時に入れるのである。即ち、一つのターンが終わった時にテールジャンプをし、テールを少し山側に振って左右のエッジを切り替えてから、次のターンを始める。以下その繰り返しとなる。
 
 
*コブ斜面での実際
 さて、テールジャンプとスピード制御のウェーデルンを使ってコブ斜面を実際に滑ってみるのだが、最初はウェーデルンまでできなくてもよく、横滑りの連続としてゆっくりやってみよう。慣れるに従ってウェーデルンに近づけていけばいいのだ。斜面も最初は中位の斜度であまり溝の深くない斜面を選ぶ。
 では、滑走中の状況をいくつかのパターンに分けながら説明していこう。
 
@溝に沿った位置からテールジャンプをし、溝のカーブ方向に逆らってターンする。この場合は、スキーにも比較的無理がかかるのでスピードはあまりでない。よってあまり横滑りでスピード制御する必要はない。
 
A大きなコブの谷側の面を滑りおりる時。テールジャンプはあまり大きくする必要はないが、スピード制御するには絶好のポイント。横滑りをしっかり使ってスピードをコントロールしよう。できればそこで2回位ターンをいれてみる。ただし、下の方へいくと次のコブの山が待ちかまえているので、あまりスピードを落し過ぎると次のコブに登れなくなる。
 
B次のコブの山にぶつかっていく瞬間。衝撃は一番大きいが、横滑りをしなくてもここでスピードが一気に落ちる。よって、横滑りを使わず真直ぐコブにぶつかっていこう。
 
図30 コブ斜面での実際 Cコブの頂点に達した時。ここは斜度が急に変わるところである。ここで伝家の宝刀、テールジャンプを行いターンまたは横滑りに入る。テールジャンプする事でスキーを斜度の変化に合わせることができ、上体も後ろへ遅れてしまう事なくコブ下側の斜面に突入できるのだ【図31】。
図31 コブの頂点でテールジャンプ 一般的に考えると、コブの頂点では膝を抱え込んで小さくなるイメージだが、それはひとまたぎできる程度の小さいコブの場合と考えた方がいいだろう。スピードを出して滑る場合は大きいコブでもひとまたぎで滑ってしまう事になるだろうが、ゆっくり滑る場合は大きいコブは斜度変化のある斜面と同じなのである。そのため頂点でテールジャンプする方法が極めて有効となる。騙されたと思ってやってみよう。
 
Dコブの横腹を滑っている時。コブの周囲を回るように滑ると楽だが、テールジャンプをしてテールをコブの山の方に振り、コブを下るように滑ることもできる。左右どちらへでも自由にライン取りができるのだ。もちろん左右どちらにターンしてもスピード制御は容易にできる。
 
 以上、このように滑っていくと溝が極端に深くないコブ斜面なら中斜面でも急斜面でも、ゆっくりと平らな斜面を滑っているかのように滑ることができるのだ。テールジャンプができないほど深い溝になると、溝のカーブに逆らってターンしていくのは難しくなるが、コブの頂点や谷側の斜面、横腹を滑る時は同様のテクニックが使えるので、今までよりはずっと楽に滑ることができるだろう。後は、技に磨をかけていくことで、ストックも(ダブルストックでなく)片手になり、テールジャンプも必要最小限の動きに抑えることができるようになり、スムーズに、そして優雅に滑れるようになるのだ。
 
*コラム6『テールジャンプ法の起源』
 私がコブ斜面克服のためにテールジャンプ法を考え出したのは、安比高原スキースクールのインストラクターに就任して最初の年の事であった。それまでは競技スキーをやっていたのでコブ斜面をきれいにウェーデルンで滑るという目標はまったく念頭になく、大きくパラレルターンでカッ飛びながら滑っていくのが関の山であった。
 そもそも、競技スキー界のスーパースターであったステンマルクは「コブ斜面は悪い癖が付くので滑らない」と断言しており、私もその教えに従い、あまりコブ斜面を滑ることはなかったのだ。実際、彼が安比高原に来た時、私は目撃した。それは、私がセンターの第4リフトに乗っていた時である。ステンマルクが右手のオオタカコースの上部に現れた。オオタカコースはコブの急斜面になっているのだが、さていったいどのように滑るのか私は興味津々(しんしん)で注目した。すると、なんとステンマルクは、ただただ横滑りでゆっくりコースを降り始めたのだった。やはり「ステンマルクはコブ斜面を滑らない」という話は本当だったのだと改めて感心したのだった。
 ところが、スキースクールにいる私は、コブ斜面の指導もしなければならないし、デモンストレーションをする時もある。シーズン初めに撮ったデモンストレーション用のビデオで散々な滑りをした私は、なんとかコブ斜面を克服できないものかと思い悩んでいた。コブ斜面を滑る時間が十分あれば克服する自信はあったが、インストラクターの自由時間というのはあまりなく、レッスンが終わる夕方にはコブ斜面を滑るリフトは止まっており、中斜面でみんなが集まってスタッフトレーニングをするのが関の山であった。
 そこで苦肉の策として考えだしたのが昼休みの時間をコブ斜面の練習に使うものであった。ポケットにチョコレートや煎餅を入れてリフト上で食べながら昼食代わりにし、毎日1時間近くコブ斜面の練習を繰り返した。練習を続ける内に、ある時ふと疑問に思ったのだ。「溝に沿って滑るのは楽だけどそれだけではどうしても行き詰まってしまう。溝に支配されないで滑る方法はないものだろうか?」と。そしてコブ斜面の溝の中に立ちながら、「どうして溝のカーブと反対方向に曲がれないのだろう」と現場検証をしてみたのだ。すると、スキーのテール部がコブにひっかかるので反対方向に曲がりにくい事が判明した。「そうか、そしたらテールを持ち上げてコブに載せてやれば曲がれるではないか!?」というのがテールジャンプ法の起源となったのである。
 その後、コブ斜面を滑るのがみるみる上達し、よほど溝の深いコブ斜面以外ならまるで平坦な斜面を滑っているかのように感じながら滑ることができるようになったのである。
 
テクニック18『ズレと切れの複合ウェーデルン』
 さて、自分で難しい技術に挑戦しようとしなくても、雪面状況が変わると必然的に難しい技術が要求される。アイスバーンのコブ斜面もその一つである。
 北緯40度のアスピリンスノーが自慢の安比高原スキー場でも、暖冬が続いたり春先になるとアイスバーンのコブ斜面が現れる。そうなると半端なインストラクターではまともに滑れない状況に一変する。
 そんな時に重宝されるのが前述の『スピード制御のウェーデルン』だが、ただただズレるばかりのウェーデルンではインストラクターとして通用しない。こんな状況でも切れるウェーデルンを要求されるのだ。では、いったいどうすれば暴走しない範囲で切れるウェーデルンができるのだろうか?
 そこで思いつくのは「ターン前半から中盤は、ずらしながらスキーをターンさせ、後半スキーが斜め横を向いた頃に強く圧力をかけてカービングターンで仕上げる」といった方法である。
 ターン中盤でスキーが真下に向いた時に強く圧力をかける方法は、テクニック15『たたきつけるように蹴りをいれて強い圧を生み出す』ですでに説明したが、この方法ではスピードが出過ぎるので、コブ斜面では無理があると言えるだろう(もちろんよりハイレベルな滑りを目指す人はチャレンジしてみよう)。
 ところで、スピードを抑えたウェーデルンでアイスバーンを滑る場合は、氷をえぐる強い圧力を生み出すような遠心力は期待できない。だから自ら能動的にスキーに強い圧力をかけてやらなければならない(もちろん柔らかい板を選ぶのも一つの方法であるが、ここでは技術面について述べる)。しかも、ショートターンであるから瞬間的に強い圧力が欲しい。となると、立ち上がる方法は不適である。高い姿勢から沈み込んで空缶を踏みつぶすようにグッと踏んばる方法が適しているということになる。しかも力のかける方向は、板がたわむ方向、即ち板の面に垂直方向にかけるのである。けっして横へずらす方向ではない。
 一連の操作をまとめてみると、
 
図32 ズレと切れの複合ウェーデルン @ターン切り替え部で伸び上がりながら抜重し
 
A荷重が抜けた状態で素早くスキーを回し込み(ターン後半部のスキーが斜め横に向く位まで一気に回し込む。ただしその角度は自分が保てるスピードに応じて、ゆっくり滑るならできるだけ横になるまで、速い速度が可能なら真下に近い角度にとどめる)
 
B(空缶を踏みつぶすように)膝を瞬時に曲げて、高い姿勢から低い姿勢へ一気に沈み込み、両スキーに強い圧力をかける。この時、腰を折って上体をつぶさないように注意する。
 というようになる【図32】。
 
 
*コラム7『検定1級の前走で緊張の一瞬』
 SAJ(全日本スキー連盟)の準指導員の資格を取るためには、SAJ1級の資格が必要であるが、安比のスキースクールに入籍した当初の私は何も資格をもっていなかった。そこで、1級検定の前走を務めることで1級の資格をもらうことになったのだが、その最初のウェーデルンのバーンがガチガチのコブのアイスバーンだったのだ。その冬は暖冬で、普段からアイスバーンのコブ斜面を滑る機会が多かったというものの、スタート位置に立つと緊張感がみなぎる。
 合図の笛の音が下の方から響くと、私の回りにいる何十人もの受験者が一瞬静まりかえった。意を決してスタートを切る。最初の大きなコブでバランスを崩しかけると、周囲から「オッオーー」と大きなどよめきが聞こえた。しかし、そこは滑走量のなせる技か、自然にリカバリーし、あとは『ズレと切れの複合ウェーデルン』を使いながら、しっかりスキーを横まで回し込んでスピードを制御し着実にリズムを刻んでいった。ゴールエリヤに到着すると、「うま〜い!」と仲間のイントラからも褒められ、主任からも「切れてるな」と嬉しい一言を頂いた。
 おそらく、仲間や主任も、私がこのバーンを前走たる滑りで無事降りてこられるのか不安でハラハラしながら見ていたのであろう。そして、残念ながら受験者は誰一人完走することができなかったのである。これは受験者のせいではなく、暖冬で雪不足のため圧雪も入れず、このバーンを使うしかなかった悪状況のせいであったと言えるだろう。スクールのイントラでさえも、あの状況の中できっちりウェーデルンを決められる者がどれほどいただろうか疑問である。
 
 
3-5■深雪技術
 
 深雪を滑ることはまさに上級者の特権、多くのスキーヤーの憧れの的でもあるが、いったいどれほど高度な技術が必要なのだろうか?
 実は、今まで紹介してきたような技術がしっかり身に付いていれば意外と簡単に滑れるものである。中でも、パラレルターンの基礎になるテクニック3『山側スキーの山側エッジに体重を移動してからエッジを切り換える』というテクニックと、テクニック10『板の面に対して垂直方向に脚を伸ばす』などのカービングターンのためのテクニックができればOKである。
 そもそも深雪の難しさは、「スキーを横へずらせない」、「前へつんのめる」、「ある程度以上のスピードが必要」といった事にある。それともう一つ、「深雪を滑れるチャンスが少ない」という事も大きな原因の一つである。
 
 「スキーを横へずらせない」ために、特にターンを切り換える時にシュテムターンぎみにスキーを開き出す癖が残っている人はうまく切り換えができず連続ターンができなくなる。それを解消するためには、パラレルターンの切り替えを完全にマスターする必要があるのだ。
 そしてまた、スキーを横へずらせないために、初中級者が普通にやっている「ずらしのターン」ができず、カービングターンをする必要に迫られる。カービングターンをするためには、板を横へずらすのではなく、板がたわむ方向に力をかけてターンする技術を身につける必要がある。深雪の中では板がたわむ方向に力をかけることは横へずらすよりはるかに簡単な事なのである。
 以上の事は深雪でなくても練習できることであり、深雪を滑る機会が少ない人にとっても希望が持てるというものだ。実際、私の場合も特に深雪の練習を積んだ訳ではないが、そういった技術をマスターする内に自然と滑れるようになったものである。
 また、深雪中はバランスを崩し易くなるのでバランス感覚を向上させる必要がある。バランスは左右へ崩すだけでなく、前後へ崩す可能性も大きい。滑走中はスキーの沈み具合い等により常に雪面抵抗が変化するので、前へつんのめる危険が高くなるのだ。常にそれを予防しながら滑るため、若干後傾姿勢になる必要があり、操作性が悪くなるのはいなめない。
 さらに雪面抵抗が大きいので「ある程度以上のスピードが必要」となり、緩斜面では練習できない、スピードや斜度に対する恐怖感が湧くのでそれらの問題を克服しなければならないだろう。これを克服するには、急斜面の深雪でワンターンずつ区切って練習する方法が有効だ。まず、斜面真下に向かってスタートをきり、左右どちらかにターンして止まる。慣れてきたら下に向かって滑る距離を長くしていき、スピードを徐々に上げてみる。さらに慣れてきたら、ワンターン、ツーターン、…と続けていけばいいのだ。
 憧れの深雪を滑るのはもうそう遠くない。北の大地の深雪を夢見て、この『ハッキリ解るスキーテクニック』もそろそろ幕を閉じよう。
 
*バランス感覚を鍛えると視界の悪い時でも滑れるゾ
 今まで述べてきた様々なテクニックも、しっかりとバランスを保つことの上に成り立っている。いわばバランス感覚は基本中の基本なのだ。
 バランス感覚は、目で見てとるバランスと、耳の奥の三半規管で感じとるバランスの2通りがあり、さらにバランスをとるために働く筋肉もしっかりとしたものに鍛えておく必要がある。
 よく高いところへ立つとめまいのようにクラッと感じる事があるが、あれは目で見てとった感覚と、三半規管が感じ取った感覚に差があることから生じている。
 私は、スキー資金を稼ぐために建設現場で働き、高い梁の上で仕事をすることも多かったから分かるのだが、高い梁の上のように足元の梁以外に自分の回りに物がない状態では、体のフラつきを目で見て取る事ができないのだ。多少体がフラついて頭の位置が動いたとしても景色にほとんど変化がなく、目で見て動いたとは認識できないのである。もし、すぐそばに壁などがあれば、頭の位置が動けば壁が動くように見えるので、自分の体がフラついた事を認識できるのだが。
 しかし、三半規管の方は違う。景色に変化がなくても、わずかに体がフラついた事を感覚として伝えてくるのだ。だから、クラッと感じるのである。
 私は、高い梁の上で仕事をすることで自然に三半規管の感覚を鍛えることとなったのである。「ここで落ちて死ぬようなバランス感覚であれば、スキーにしたって大した物にはならないだろう」と決死の覚悟で仕事をしたものだった。ただ、鳶職の人達はそんな所でもスタッ、スタッ、スタッ、と平気で歩いて行くので、決死の覚悟をしていたのは私ぐらいのものだっただろうが…。
 しかし、そうやって自然に三半規管の感覚を鍛えて迎えた次の冬は不思議な事が起こったのだ。今までは、吹雪やガスで雪面が見えないような状態の時はまともに滑れなかったのが、なんと平気で滑れるようになったのである。もちろんスキー技術の向上もあったのかもしれないが、それとは違う感覚的なものだと私は認識した。
 バランス感覚、特に三半規管の感覚を鍛えることの重要性を改めてわかってもらえたと思うが、それではどうすれば三半規管の感覚を鍛えることだできるだろうか?
一番簡単な方法は「目を閉じて片足で立つトレーニング」である。目を閉じることにより、目からの感覚をシャットアウトし、三半規管だけにたよったバランス感覚を磨くことになる。また、片足で立つことは、バランスをとる筋力を強化することができる、一石二鳥の作戦なのである。
 先のような吹雪やガス中の滑走だけではなく、外足にしっかり荷重を保ち続けるなど、スキーの基本を守るためにも必要不可欠なバランス感覚というものを、どうか切磋琢磨していただきたい。
 
 


目次へ  第1章  第2章(前へ) 

この章TOPへ  !8 HOME

スキーテクニック 質問コーナー


inserted by FC2 system